このページの要点
- 守秘義務の根拠は三つ。資格者に課す法律(公認心理師法41条、職業能力開発促進法30条の27第2項)、個人情報の取扱いのルール(個人情報保護法)、そして契約。資格のない提供者は契約が唯一の根拠になる。
- 「秘密情報」の定義は、技術上・営業上の情報向けの雛形のままにせず、受講者が打ち明けた内容そのものを守る対象にする。提供者が負う守秘、受講者が負う守秘、教材の利用制限は分けて書く。
- 例外開示は、本人の同意、法令に基づく場合、生命・身体・財産の保護のために必要で同意を得ることが困難な場合に絞り、個人情報保護法27条1項の例外とそろえる。事例検討・補助者・外部サービスへの共有は、同意か委託の整理と監督(24条・25条)で書く。
- 提供者側の相談内容の守秘は、資格者の定めと同様に、契約終了後も期間を区切らず存続させるのが自然。受講者側は、他の参加者の話を守る条項と、教材を守る条項を別に立てる。
結論:資格がなければ、相談内容を守る義務は契約で自分で作る
コーチやカウンセラーが相談内容を外に出さない義務は、三つの別々の根拠から成り立っています。資格を持つ人に法律が直接課す守秘義務、個人情報を事業で扱う者に法律が課す取扱いのルール、そして契約で当事者が約束する守秘義務です。資格を持たない提供者にとって、一つ目は当てはまらないことが多く、実際に頼りになるのは三つ目、つまり契約書の守秘条項です。ところが、その条項が技術上・営業上の秘密を想定した雛形のままだと、肝心の相談内容が守る対象に入っているのかどうかが曖昧になります。
法律が守秘義務を直接定めている例として、公認心理師法41条があります。公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならず、公認心理師でなくなった後も同様とされています。違反には、同法46条により、1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が定められ、告訴がなければ公訴を提起できない罪とされています。キャリアコンサルタントについても、職業能力開発促進法30条の27第2項が、業務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならないと定め、キャリアコンサルタントでなくなった後も同様としています。
刑法134条の秘密漏示罪もあります。ただし、この罪の主体は条文に挙げられた職に限られています。1項は、医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者を、2項は、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者を挙げています。コーチやカウンセラーという呼び名の人が、この列挙に当然に含まれるわけではありません。したがって、資格を持たない提供者が相談内容を漏らさないことを法律上の義務として負うのは、契約でそう約束したとき、あるいは次に述べる個人情報の取扱いのルールに従う範囲に限られると整理するのが安全です。
守秘の根拠の整理(一般的な整理)
| 根拠 | 誰が負うか | 内容 | 契約書で補う点 |
|---|---|---|---|
| 公認心理師法41条・46条 | 公認心理師 | 業務に関して知り得た人の秘密を漏らさない。資格を失った後も続く。違反には刑事罰(告訴が必要) | 資格者であるかどうかを契約書にはっきり書く。資格者でなければ、この義務は及ばない |
| 職業能力開発促進法30条の27第2項 | キャリアコンサルタント | 業務に関して知り得た秘密を漏らさず、盗用しない。資格を失った後も続く | 同上。名称の使い方は名乗り方のページで整理している |
| 刑法134条 | 条文に列挙された職にある(あった)者 | 正当な理由なく、業務上知り得た人の秘密を漏らさない | 列挙に当たらない提供者は、契約で定める必要がある |
| 個人情報保護法 | 個人情報データベース等を事業の用に供している者 | 個人データの安全管理(23条)、従業者・委託先の監督(24条・25条)、第三者提供の制限(27条) | 守秘そのものではなく取扱いのルール。契約の守秘条項と食い違わないように書く |
| 契約 | 契約で約束した当事者 | 約束した範囲・例外・存続期間のとおり。違反は債務不履行(民法415条) | 範囲・例外・存続を自分で設計する。このページの中心 |
個人情報保護法は、資格の有無にかかわらず、個人情報データベース等(個人情報を検索できるように体系的に整理したもの)を事業に使っている者に適用されます(同法16条2項)。顧客名簿を表計算ソフトで管理している個人のコーチも、これに当たり得ます。この法律は、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供することを原則として禁じ(27条1項)、安全管理のために必要かつ適切な措置を求めます(23条)。これは相談内容を守るための土台になりますが、「相談された話を、誰にも話さない」という約束そのものを定める法律ではありません。話してよい相手、話してよい場面、話す理由を契約で決めておくことが、提供者と受講者の双方を守ります。
契約に守秘の定めがなくても、信義誠実の原則(民法1条2項)から、相談内容を漏らさない義務が導かれる場面は考えられます。しかし、それでは守る範囲も、例外も、続く期間もはっきりしません。受講者から「あの話を誰かに話しましたか」と問われたときに、提供者が根拠を示して答えられるようにするためにも、契約書に書いておく価値があります。
「秘密情報」の定義を、相談内容に合わせて作り替える
守秘条項の雛形でよく見るのは、「技術上、業務上、経営上、財務上の情報、営業戦略、取引先情報、ノウハウその他一切の非公開情報」を秘密情報と定義する形です。会社同士の取引では自然ですが、1対1のセッションでは、守りたいものが違います。受講者が話すのは、家族のこと、健康のこと、職場の人間関係、お金の悩み、過去の出来事、いまの気持ちです。これらが「業務上の非公開情報」に入るのかどうかは、読み手によって答えが変わります。
もう一つ、雛形に付いてくる「公知の情報は秘密情報に当たらない」という例外にも注意が要ります。技術情報なら、すでに公開された情報は守る必要がないという考え方で通ります。しかし、相談内容の場合、受講者本人が一部をSNSに書いたことがあるからといって、残りの部分や、そこに登場する家族の事情まで、提供者が自由に話してよいことにはなりません。守る対象は「情報の種類」でなく、「本人が提供者を信頼して打ち明けたこと」だと考えて定義を作ります。
守秘条項の三つの型(一般的な整理)
| 型 | 誰が守るか | 主な目的 | 不足しがちな点 |
|---|---|---|---|
| 提供者が負う型 | 提供者だけ | 相談内容と個人情報を守る | 受講者がグループの他の参加者の話を外に出す場面や、教材の持ち出しが別に必要になる |
| 双方が負う型 | 提供者と受講者の双方 | 相互の情報を守る。雛形に多い | 定義が技術上・営業上の情報向けで、相談内容が入るかどうかが曖昧。返還・消去の条項も相談内容に馴染まない |
| 受講者だけが負う型 | 受講者だけ | 提供者のノウハウ・教材を守る | 受講者の相談内容を守る条項がなく、提供者の守秘が個人情報の取扱条項だけになる |
この三つのうち、どれが正しいということではありません。ただ、一本の条文にすべてを押し込むと、相談内容と提供者のノウハウとが同じ「秘密情報」になり、返還・消去の請求も、公知の例外も、どちらにも噛み合わない条文になります。実務では、提供者が相談内容を守る条項、受講者が他の参加者の話を守る条項、提供者の教材やノウハウの利用を制限する条項の三つに分けて書くと、それぞれの例外と存続期間を別に決められます。
書き方の例(一般的な例) 秘密情報の定義と例外
定義
理由「非公開情報」という限定を外し、受講者が打ち明けた内容そのものを守る対象にする。情報の種類でなく、打ち明けられたという事実で範囲を決める。
公知の例外
理由本人が一部を公にしたことを、残りを話してよい理由にさせない。第三者(家族など)に関する部分は、本人の公表だけでは足りない。
書き方の例提供者の守秘(第○条)
- 乙は、前条の相談内容等を、本契約の目的であるセッションの実施、フィードバックの作成、請求及び連絡のために必要な範囲でのみ取り扱い、これ以外の目的に使用しない。
- 乙は、法令に基づく場合、甲の同意がある場合、及び第○項に定める場合を除き、相談内容等を第三者に開示しない。
- 乙は、乙の補助者及び乙が利用する外部サービスの提供者に相談内容等を取り扱わせるときは、必要な範囲に限り、乙の責任において適切に管理する。
- 本条の義務は、本契約が終了した後も存続する。
目的の範囲、例外、補助者・外部サービス、存続の四つを一つの条にまとめた例です。例外の中身は次の節で、補助者・外部サービスの範囲はその後の節で整理します。「第○項」は例外開示を定める項を指します。
例外として開示できる場面を、法律の例外に合わせて書く
相談内容を守る契約にも、例外は必要です。ただし、例外の書き方で守秘の価値がほぼ決まります。「乙が必要と判断したときは開示できる」のような無限定の例外を置くと、原則と例外が逆転します。受講者から見れば、守ってもらえるのかどうかが提供者の判断次第になるからです。消費者との契約では、消費者の権利を制限する条項として、消費者契約法10条の評価を受ける可能性もあります。
例外は、個人情報保護法27条1項が、本人の同意なしに個人データを第三者に提供できるとしている場面と食い違わないように書くのが基本です。契約の例外として一般に置かれるのは、次の三つです。一つ目は、本人の同意がある場合です。二つ目は、法令に基づく場合で、同項1号にも同じ例外があります。三つ目は、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるときです。これも同項2号が定めている要件で、「必要があるとき」だけでなく、「同意を得ることが困難であるとき」までが条件になっている点が重要です。
二つ目の「法令に基づく場合」は、書き方を決めておかないと運用がぶれます。法令上の義務を伴う開示と、任意の協力の求めとは別のものとして扱い、任意の求めに応じて相談内容を出すかどうかは、本人の同意があるか、三つ目の要件を満たすかで判断する、と提供者自身の取扱いルールとして決めておくと、現場で迷いにくくなります。
相談内容を第三者に開示するかどうか迷ったときの確認の順序(一般的な例)
- 開示を求められた理由を特定する誰が、何の目的で、どの範囲の情報を求めているのか。第三者か、本人の関係者か、公的な機関か。口頭か書面か。
- 法令に基づく義務かどうかを確かめる法令上の義務を伴う開示か、任意の協力の求めかを区別する。義務の根拠となる法令が何かを記録する。
- 本人の同意を得られるか同意を得られるなら、開示する範囲と相手を示して同意を得る。同意は記録に残す。
- 生命・身体・財産の保護のために必要で、同意を得ることが困難か緊迫した事情があり、本人に連絡が取れない、あるいは連絡して同意を得る時間がない場合に限る。可能なら、開示した後に本人へ伝える。
- 開示の範囲を最小限にする求められた内容の全部ではなく、目的に必要な範囲に絞る。メモや録音を丸ごと渡さない。
- 開示の事実と理由を記録する日時、相手、範囲、根拠、判断した人を残し、後から説明できるようにする。
生命や身体に関わる場面の運用の詳細は、別のガイドで扱います。ここでは、契約の例外を法律の例外と揃えておくことが要点です。
書き方の例例外開示(第○条第○項)
- 乙は、次のいずれかに該当する場合に限り、必要な最小限の範囲で、相談内容等を第三者に開示することができる。(1)法令に基づく場合 (2)人の生命、身体又は財産を保護するために必要があり、かつ、甲の同意を得ることが困難である場合
- 乙は、前項により開示したときは、開示の日時、相手方、範囲及び理由を記録し、甲に不利益を及ぼさない範囲で、できる限り速やかに甲に通知する。
本人の同意による開示は別の項で定めます。第1項の(1)(2)は、個人情報保護法27条1項1号・2号と同じ構造にそろえた書き方の例です。「必要と判断したとき」のような無限定の例外は置きません。
事例検討・補助者・外部サービスに共有する範囲
提供者が一人で仕事をしていても、相談内容が提供者だけの頭の中に収まるとは限りません。技術を磨くために同業者や指導者に事例を相談する、補助者に予約や連絡を任せる、予約システム、決済、オンライン会議ツール、メッセージアプリ、文字起こしのサービスを使う。こうした場面のたびに、相談内容を誰かに見せたり、どこかに預けたりしています。契約書の守秘条項は、これらを含めた全体として設計しないと、条文と実際の運用が食い違います。
法律上の整理は、おおむね次のとおりです。個人データを第三者に提供するには、原則として本人の同意が必要です(個人情報保護法27条1項)。他方、利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの取扱いを委託することに伴って提供される場合、提供を受ける者は第三者に当たらないとされています(同条5項1号)。ただし、その代わりに、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければなりません(25条)。自分の補助者や従業者にも、必要かつ適切な監督が求められます(24条)。外部サービスの運営者が外国にある場合には、外国にある第三者への提供の制限(28条)の検討も必要になります。
事例検討はやや事情が違います。指導者や同業者に話す目的は、提供者自身の学びや品質の向上であり、相談内容の取扱いを委託しているわけではありません。したがって、本人の同意を得るか、本人が識別できない形にして話すかのどちらかが基本になります。注意したいのは、氏名を伏せただけでは足りない場合があることです。個人情報は、他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別できるものも含みます(同法2条1項1号)。年齢、職業、住んでいる地域、家族構成、出来事の時期が重なると、聞いた人が誰のことか分かってしまうことがあります。契約書では「特定できないように加工する」と書くだけでなく、運用として、職業や地域、時期など特徴的な事情を変える、あるいは省く手順を決めておきます。
共有の場面ごとの整理(一般的な例)
事例検討・指導を受ける
起きがちなこと氏名を伏せただけで、職業や地域、出来事の時期がそのまま残り、聞いた人が本人を特定できてしまう
手当て本人の同意を契約時に得る、または、特徴的な事情を変えて個人が識別できない形で話す。同意の対象は「事例検討の目的で、識別できない形で話すこと」と書く
補助者に予約・連絡を任せる
起きがちなこと補助者が相談内容まで見られる状態のまま、監督や取り決めがない
手当て補助者が見られる範囲を予約と連絡に必要な情報に絞り、守秘の約束と監督(個人情報保護法24条)を運用として決める
予約・決済・会議・メッセージなどの外部サービス
起きがちなこと外部サービスにどの情報が預けられているのか、受講者が把握していない
手当て契約書または別紙に「提供者が利用する外部サービス」と預ける情報の種類を示す。外国にある運営者のサービスを使う場合は、28条を検討する
他の提供者へ引き継ぐ・紹介する
起きがちなこと引継ぎ先に、本人の同意を得ずに相談内容まで渡してしまう
手当て引継ぎ・紹介の前に、渡す情報の範囲を示して本人の同意を得る。同意が得られなければ、連絡先の案内にとどめる
文字起こしのサービスや生成AIに録音や相談内容を入れる場合は、その事業者に個人データを預けることになります。委託として整理できるか、同意を得て第三者に提供するのかは、サービスの利用条件によって変わるため、契約に書く前に、利用規約や取扱いの内容を確かめる必要があります。
存続期間:契約が終わっても、相談内容の守秘は終わらない
秘密保持の条項には、「本契約終了後○年間存続する」と書く習慣があります。技術情報であれば、時間がたてば価値が下がり、守る必要もなくなるので、この書き方は合理的です。しかし相談内容は性質が違います。数年たっても、家族のこと、病気のこと、過去の出来事は、本人にとって秘密のままです。提供者側の守秘について、契約終了後の一定年数で義務が消える書き方をすると、その日から相談内容を話してよいことになってしまいます。
資格者に対する法律の定めを見ると、この点がはっきりします。公認心理師法41条も、職業能力開発促進法30条の27第2項も、資格を失った後も秘密を守る義務が続くと明記しています。資格を持たない提供者の契約でも、これと釣り合うように、提供者側の相談内容の守秘は期間を区切らず存続させるのが自然です。期間を区切りたい場合は、「個人を識別できなくなったとき」のように、情報の性質に応じた終わり方を決めます。
事業の譲渡や廃業のときの扱いも、あらかじめ決めておけます。合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合、提供を受ける者は第三者に当たらないとされていますが(個人情報保護法27条5項2号)、承継先が守秘を引き継ぐことを契約に書いておくと、受講者にとっても予測しやすくなります。廃業の場合は、データを消去する時期と方法を決め、その間は守秘が続くことを示します。
書き方の例(一般的な例) 存続期間
提供者側の存続
理由相談内容は時間がたっても秘密であり続けるため、年数で区切らない。区切るのは、本人を識別できなくなった情報に限る。
受講者側の存続
理由他の参加者の話は期間で消えない。教材・ノウハウは別のルールで、必要な範囲で期限を付ける。
受講者側の守秘:グループ併用・他の参加者・録音とSNS
1対1のセッションだけの契約でも、受講者側に守ってほしいことはあります。グループセッションやコミュニティを併用している場合は、他の参加者の話が最も重要です。提供者がどれだけ相談内容を守っても、参加者の一人がグループの話を外に出せば、全員の信頼が損なわれます。ここで受講者に課す守秘は、提供者のノウハウを守るためのものとは性質が違い、他の参加者の相談内容と個人情報を守るためのものです。この二つを同じ「秘密情報」として一本にまとめると、返還や消去の請求、違反時の効果が噛み合わなくなります。
提供者が守るものと、受講者が守るものの線引き(一般的な例)
提供者が守るもの
- 受講者が打ち明けた相談内容、提出した資料、個人情報
- 同席した家族や関係者の話(受講者から聞いた範囲)
- 利用する外部サービスや補助者に預ける情報の範囲
- 契約が終了した後も続く守秘
受講者が守るもの
- グループセッションなどで知った他の参加者の発言と個人情報
- 他の参加者の特定につながる情報(SNSの投稿、画面の写真を含む)
- 提供者の教材・資料の外部への公開(これは守秘でなく、別の利用制限条項で定める)
- 録音・撮影した場合は、その保管と共有の範囲(記録の扱いは別のページ)
左右で「何のための義務か」が違うので、条文も分けて書きます。
違反したときの効果にも、書きすぎないための配慮が要ります。守秘義務違反を理由に、直ちに無催告で契約を解除し、一定額の違約金を請求するといった定めは、書くこと自体は可能です。しかし、消費者との契約では、民法90条(公序良俗)や、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)の評価を受け得ます。除名や退会、再発防止の請求、実際に生じた損害の賠償といった、損害に見合った効果にとどめるほうが、条文の実効性も保てます。
なお、支払う人と受ける人が別の場合や、家族が同席する場合の守秘の線引きは、費用を負担する人と受ける人が違うときで扱っています。契約書や規約の役割分担は、全体像のページで整理しています。
条文を決める前に答えておく問い
守秘条項は、書面に書く前に、自分の運用に当てはめて答えを出しておくと、現場で使える条文になります。次の問いは、条文を作る前に紙に書き出してみる価値があります。
守秘条項を作る前の問い
問い相談内容を誰かに見せたり、預けたりする場面は何か。事例検討、補助者、外部サービス、引継ぎのどれを使うか。
理由ここで挙がった場面が、契約の同意と例外に書く対象になります。書き漏れた場面は、運用と契約が食い違います。
問い資格者としての守秘義務を負う立場か、契約でだけ負う立場か。
理由資格者であれば法律上の義務が上乗せされ、そうでなければ契約が唯一の根拠になります。契約書にどちらかを明記します。
問い例外として開示するのは、どんなときか。「必要と判断したとき」で済ませていないか。
理由例外は、法令に基づく場合と、生命・身体・財産の保護のために必要で同意を得ることが困難な場合に絞ると、法律の例外と食い違いません。
問い契約が終わった後に、相談内容をどう扱うか。保管するか、消去するか、いつまでか。
理由存続期間と、記録の保管・消去の取扱いは一体で決める必要があります。記録の扱いは記録のページで整理しています。
問いグループ併用や、同席者がいる場合、受講者側の守秘をどう書くか。
理由他の参加者を守る条項は、提供者のノウハウを守る条項とは別に立てると、違反時の効果を適切に決められます。
締結前・見直し時のチェックリスト
- 守秘の対象に、受講者が話した内容、提出した資料、個人情報が含まれている
- 「技術上・営業上の情報」限定の定義を、そのまま使っていない
- 例外が、本人の同意、法令に基づく場合、生命・身体・財産の保護のために必要で同意を得ることが困難な場合に絞られている
- 事例検討、補助者、外部サービスへの共有について、本人の同意または委託の整理が済んでいる
- 提供者側の存続期間を、一定年数で打ち切っていない
- 受講者側の守秘は、他の参加者を守る条項と、教材を守る条項とに分けてある
起きがちなこと
守秘条項で起きがちなこと
- 守秘義務の条項があるのに、その定義が技術上・営業上の情報向けで、相談内容が秘密情報に入るのかが書いていない。受講者から問われたときに、入る根拠を示せない。
- 守秘義務が受講者側だけを縛る書き方になっていて、提供者が相談内容を守る条項がなく、個人情報の取扱いの条項だけが残っている。
- 例外が「提供者が必要と判断したとき」のまま残り、例外のほうが原則より広く読める。
- 事例検討で、氏名を伏せただけで話し、職業や地域、出来事の時期から本人が分かってしまった。
- 外部サービスや補助者に預けている情報の範囲を、受講者に伝えておらず、運用が契約書より広い。
- 存続期間を契約終了後の一定年数にしたため、期間が過ぎた後の扱いが決まっておらず、相談内容を話してよいように読める。
- グループの参加者の話を外に出さない義務が、受講者の規約に書かれておらず、投稿を止める根拠がない。
よくあるご質問
資格のないコーチやカウンセラーにも、相談内容の守秘義務はありますか。
法律が職業として直接に守秘義務を課している主体には、資格のない提供者は含まれないのが通常です。ただし、契約で守秘を約束すればその約束が義務になり、違反すれば債務不履行(民法415条)の問題になります。個人情報を事業で扱っていれば、個人情報保護法の安全管理(23条)や第三者提供の制限(27条)も適用されます。契約書に、守る対象、例外、存続を書いておくことが基本です。
公認心理師やキャリアコンサルタントでない場合、契約書にはその旨を書くべきですか。
書いておくのが望ましいといえます。公認心理師法やキャリアコンサルタントに関する定めによる守秘義務は、資格者に課されるもので、資格のない提供者には及びません。資格者であるかのような誤解を避け、守秘の根拠が契約であることを示すために、資格の有無を確認する条項を置きます。名称の使い方は名乗り方のページで整理しています。
受講者に「相談した内容を家族に話さないでほしい」と言われたら、どうなりますか。
受講者の同意なく、相談内容を家族を含む第三者に伝えることは、守秘条項と個人情報保護法27条1項の両方に反するおそれがあります。支払う人が家族でも同じです。支払の状況や出席の事実など、共有してよい範囲を契約時に決めておき、それ以外は共有しない取扱いを徹底します。詳しい線引きは費用を負担する人と受ける人が違うときで扱っています。
守秘義務の例外として、生命や身体に危険がある場合に連絡してもよいですか。
契約で例外として定めておけば、その範囲で開示できます。個人情報保護法27条1項2号も、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合で、本人の同意を得ることが困難であるときを例外としています。「必要があるとき」だけでなく、「同意を得ることが困難であるとき」までが要件になっていることに注意し、開示の範囲を最小限にします。
契約が終わった後、守秘義務はいつまで続きますか。
提供者側の相談内容の守秘は、期間を区切らずに存続させるのが自然です。公認心理師法やキャリアコンサルタントの定めも、資格を失った後の守秘を明記しています。期間を区切る書き方は、技術情報には合っても、相談内容には合いません。本人を識別できなくなった情報は適用の対象外にするなど、情報の性質に応じた終わり方を決めます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、セッションの内容・申込みの経緯・支払の方法などによって異なることがあります。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 / 個人情報保護委員会 / 厚生労働省